近藤誠氏の詐術 増え続ける「抗がん剤が効く」”例外”と、文藝春秋との”関係”

COI(利益相反)開示:
本記事を執筆するに際し、開示すべき利害関係はありません。

要旨:
近藤誠氏は説明無しに年々「抗がん剤が効く」がんを増やし続けている。
在職中なら懲戒免職相当であろう捏造(http://togetter.com/li/691713)と併せ、
意図的に知識の無い読者を騙そうとしていると考えられる。

以下、簡潔に根拠を示す。※赤字は前回と比較し増えた部分。

急性白血病悪性リンパ腫等の血液がんは検討対象外
本書の記述が最終見解です
   『抗がん剤は効かない』p11−12
    (2011年5月・文藝春秋社刊)

「血液のがん」睾丸腫瘍・子宮絨毛がんは対象外」
   『「がんもどき」で早死にする人、「本物のがん」で長生きする人』p10
    (2013年11月・幻冬舎

急性白血病悪性リンパ腫などの血液がん抗がん剤で治る可能性がある」
「固形がんでも睾丸腫瘍・子宮絨毛がん小児がん抗がん剤で治る可能性がある」
   『中居正広の金曜日のスマたちへ
    (2014年10月3日・TBS)

 なお、私の知る限りこの件に関する近藤誠氏の説明は一切ありませんでした。

暴かれたインチキ
   近藤誠 『抗がん剤は効かない』p16

「本書出版のレールを敷いていただいた、文藝春秋松井清人さん、飯沼康司さん、および適切な指摘を賜った、編集者の嶋津弘章さんと吉地真さんに厚く御礼申し上げます」
   同 『抗がん剤は効かない』p248

 5月27日開催の決算役員会で、松井清人専務が文藝春秋社の)新社長に就任するトップ人事を内定した。
  新文化ONLINE(http://www.shinbunka.co.jp/news2014/05/140527-01.htm

「得意不得意、好き嫌いを言っている暇も余裕もないのですよ、実際。それに私だって、いまだに得意なテーマなんて言えるものはありません」
 文藝春秋「SPECIAL」編集長吉地真http://www.bunshun.co.jp/recruit/about/magazine/special.html

付記:
実はこの手の「羊頭狗肉」は今に始まったことではありません。
当時の方がはるかにまともかつ問題提起を含んでいたとは言え、
1988年当時の文藝春秋誌への初投稿でも既にその傾向が伺えます。

 乳ガンは切らずに治る 著者:近藤 誠 掲載誌名 文芸春秋
 http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I2879880-00

ここでは、近藤誠氏は「乳房温存手術」を主張していた、
と指摘するに留めます。

付記2:
ご質問等ありましたらtwitterhttps://twitter.com/maturiya_itto )までどうぞ。
長いバージョンの原稿欲しかったりする方も以下同文。

藤田紘一郎名誉教授の1000万円稼いだ文章をご紹介します。

 大変残念な事に、プロポリスを販売していたシャブロン社の販促ブログが、社長が逮捕されただけなのに何故か閲覧できなくなってしまいました。その中で、藤田紘一郎氏の功績についてまだグーグルにはキャッシュが残っていましたので、その栄誉を讃えて転載させて頂きます。発見するきっかけとなった、地道に活動記録を残されていた故・碧猫さんには、この場を借りて感謝します。ありがとうございます。

 それでは、東京スポーツ」コラムに掲載されていた、1000万円稼ぐきっかけとなったであろう名文をご覧下さい。

 藤田紘一郎先生がCBプロポリスを新聞記事に・・!

 こんばんは、シャブロンの荻野です。

 最近、テレビ等マスコミに度々ご登場の藤田紘一郎先生が、
東京スポーツ」で「目からウロコの健康ヒジョーシキ」の連載記事を書いていらっしゃるのをご存知でしょうか?
 毎回必ず「ダジャレ」が効いていて・・・(!?) とっても楽しませて頂いているんです。

 東京医科歯科大学名誉教授の「カイチュウ博士」とお話しした方がピンと来る方が多いでしょうか?

 藤田先生は、以前よりCBプロポリスをご愛用頂いていて、
 自然のバランスを決して崩さないという理念を持って、
 余計な添加物は決して加えずに、
 こだわりぬいているCBプロポリスをとても理解してくださっています。


 藤田先生21年1月13日東スポ記事

「私たちはこの地球で38億年生きてきました。ワクチンや抗生物質が発見されてから、たかだか100年しかたっていません。しかし、そんなものがなくても地球上に長く生きてこられたのは、自然からもらった『治癒力』のおかげです。」

「ミツバチが作った『プロポリス』には『フラボノイド』という活性酸素の作用を抑える物質が多量に含まれています。活性酸素は細胞を老化させたり、がん化させる物質です。」


 CBプロポリスの話題の時に、いつも熱く語ってくださっていることを、
 本日、そのまま記事にしてくださっていました。
 本当に嬉しく拝見致しました。
 藤田先生、有難うございます!!!

 やっぱり、信念を貫いて頑張っていると、
 分かってくださる方が増えてくるんだ〜〜

 ・・・と、今日もプロポリスで感動の一日でした。

 皆様、とてつもなく寒いですので、
 暖かくして休んでくださいね。

 CBプロポリスのシャブロンのホームページはこちらです。

 プロポリス32年間の現場から ※文中強調筆者

 また、既報・朝日新聞デジタルの該当部分と併せてご覧頂きますと、いっそう味わい深くなると思われます。

県警によると、藤田名誉教授は2009年6月〜13年10月、「副作用なくがん細胞が自滅」などとプロポリスの効能を書いた原稿を作り、健康食品販売会社のシャブロンに送付。同社が薬事法に違反してプロポリスを販売するのを手助けした疑いがある。09年から4年間で1千万円以上の顧問料を受け取っていたという。

「プロポリス、がんに効く」 藤田名誉教授を書類送検
2014年3月10日14時04分
はてなブックマーク - 「プロポリス、がんに効く」 藤田名誉教授を書類送検:朝日新聞デジタル

 日付が合わないのが大変不思議ですが、業者のそれは2009年1月13日分の記事です。未発見の場合、報道、及び警察の方はぜひ参考にして頂きたく思います。

※顧問料と日記の時系列が本当ならマジで日頃からプロポリス愛好してた訳で、それってさらにどうなの的な。

1分でわかる瀬田クリニックの歴史

 不安になられている患者さん、及びご家族・ご友人の方々へ。
 ぜひ最後までお読みの上で、ご判断の参考にして頂ければ幸いです。
 以下、公刊された本からの抜粋です。

 この(アガリクスを使った)画期的な治療法によって、多くの患者さんが回復される事実を目の当たりにしています
   後藤重則『苦しまずにガンは治る いま注目の「茸」を取り入れた最新「免疫療法」』(1998年

 奏功率は14〜30%の間
   江川滉二・後藤重則『がん治療 第四の選択肢』(2001年

 免疫細胞療法の治療成績は、奏功率二九%。新しい抗ガン剤(分子標的薬)と併用すれば、奏功率は六一%にまで高まるというデータもある。
   『「変える勇気」が会社を強くする!』(2004年

 後藤重則 活性化リンパ球療法の奏功率は10数%ぐらいになります。
   『検証・免疫信仰は危ない』(2004年

 後藤重則・瀬田クリニック東京院長は(中略)「免疫療法単独なら奏功率は10%に満たないだろう」と話す。   『週刊東洋経済4月28日ー5月5日号』(2012年

 非常に手っ取り早く「説得」にも使えると思いますので、迷っていらっしゃる方へご活用下さい。

付記:
『「変える勇気」が〜』は『株式会社メディネット』についての取材記事。メディネットは瀬田クリニックのバックグラウンド会社。

追記:
当初、一冊目のプロフィールについての記述がありましたが、誤解を招く記述を含んでいた為取り下げました。悪しからずご了承下さい。

追記2:
「10%に満たない」とは「数%は効く」の意味ではありません。
ぜひとも「未満」の定義を思い出しましょう。
ここら辺の誠実に見せるテクニックは非常に上手いですね。

11月1日追記:
おまけのステキ画像。

こんな風に「帯で煽る」手法もある訳です。
一般的に、通販サイト等には帯まで載りませんからね。
必然、実態の確認もし辛い訳でして……。

つまるところ、免疫細胞療法とは何か?
もうこの記事だけで、お分かり頂けたことと思います。
他のクリニックも似たり寄ったりではありますが……。

日焼け(タンニング)マシンはがんの元

 ここ十数年、日焼けサロンは激増した。
 かつてのガングロ(全身色黒)ブームほど表だってはいないが、今では街角のそこここにサロンを見かけることが出来る。
「褐色の肌」「小麦色に」「こんがりと」
 謳い文句を見ても、極めて健康的なイメージが並ぶ。
 しかしながら、「日焼けが健康的」とのイメージは、果たして事実なのだろうか。

 そもそも、日焼けとは何だろう?
「肌が日に焼けること」、では不十分である。
 抑えておくべきは、日焼けは「紫外線の身体への侵入を防ぐため、肌がメラニン色素を産出する現象」であるということだ。このメラニン色素の産出こそが、俗に日焼けと呼ばれる。つまり日焼けとは、紫外線の害を防ぐべく起こる防御反応に他ならない。
 放射線ほどではないが、紫外線も遺伝子を損傷させる力を持っている(というより、放射線の波長が長いもの≒エネルギーの小さなものが紫外線である)。日焼けと害は表裏一体であり、健康な日焼けなどということは有り得ない。
 そしてもちろん、太陽の紫外線か日焼けマシンの紫外線か、という区別は肌には無い。天然でも人工でも、危険なものは危険である。どう理屈をつけようと紫外線は紫外線であり、大なり小なり肌に害があることに変わりはない(でなければ防御反応である日焼け自体が起こらない)。

「小麦色の肌は健康的」というイメージ、「日焼けサロンなら(有害な紫外線をカットしているから)安心」との謳い文句も問題だが、本当の問題は「日焼けサロンに通うと(通常の太陽由来のものに加えて)さらに紫外線が肌にあたる」ことだ。

 世界的がん研究機関であるMDアンダーソンでは、日焼けマシンについてこう警告している。

 皮膚がんはアメリカではもっともありふれたタイプのがんだ。すべてのがんの内、およそ半分を皮膚がんが占めている。その内90%が基底細胞がんであるが、これは早期発見できれば外科的処置でほぼ治療することが出来る。有棘細胞癌はそれに次ぐ頻度である。メラノーマ(悪性黒色腫)は最も攻撃的かつ致死的なタイプの皮膚がんである。

 これまでの研究は、三つのがんすべてが日焼けマシンと関連していることを示している。ある研究では、月に一度以上日焼けマシンを使う女性は使わない女性に比べて55%以上、メラノーマの発生率が増加した。このリスクは35歳未満に日焼けマシン使用を開始することでさらに増加していた。別の研究では、一切使用していなかった者に比べ、使用者のメラノーマ発生リスクは75%増加、多用している者では200%の増加に直面していた。

 2009年、国際がん研究機関(IARC・世界保健機関(WHO)の一部門)が日焼けマシンを発がん性リストに指定したにもかかわらず、アメリカの100以上の都市では日焼けサロンの数はスターバックスマクドナルドを合わせた数を上回っていた。さらに言えば、アメリカの17歳の女性の内、3分の1以上が室内タンニングを使っていたと報告されている。

   『OncoLog』2012年3月号「タンニングベッド(日焼けマシン)は健康リスクを増加させる」(筆者抄訳)

 無論、「健康に悪いから肌を焼くなんて止めろ」と言っている訳ではない。単にイメージチェンジをしたい人ひと、小麦色の肌が欲しいひとにとって、そう言ってもただの余計なお世話というものだ。皮膚がんの発生は人種差・地域差が大きく、単純に危険性が倍増する訳でもない(日本人はというと、白色人種ほど弱くはないが、黒色人種ほど丈夫でもないようだ)。
 だが、健康のために肌を焼いている、というようなひとは注意が必要だ。既に述べたとおり、それは逆効果になる可能性が極めて高い。

 テキサス州では2009年に16歳未満の使用を、カリフォルニア州では2011年に未成年者の使用を禁止する法律が出来ている。また日焼けサロンチェーンの「ビタミンDを補充」とのPRに、テキサス当局は警告を出している。体がビタミDを生むのは何も日焼けサロンだけではないし、食べ物からとっても全然構わない。しかも、日焼けサロンほどの健康リスクは無い。
 このように他との比較をさせない広告は、極めてありきたりといっていい。これはアガリクスの広告手法――βグルカンが大量に含まれている称するが、他の安価なキノコ類にも同じく含まれている――やクロレラの広告手法――ビタミンKが大量に含まれていると称するが、納豆やホウレン草、わかめや、ノリなどにも大量に含まれている――にも使われている。他のものと比較しなければ、「そもそもそれは本当に必要なのか?」との根本的な疑問は生まれにくいものだ。

 あまり日焼けサロンが「健康的」なイメージを押し出し続ければ、日本の警察や厚労省も動かざるをえなくなるだろう。実際、ブラジルでは既に、日焼けマシンは全面禁止されている。
 近い将来、日本でも「違法日焼け店摘発!」がニュースになる時代が来るのかも知れない。

 書きかけ原稿からの試験的転載です。
 最近の論文は本当にいろいろ検証してあって面白いですね。
 英語出来る人は原文の一読をお薦めします。

Tanning Beds Pose Health Risks Dangers of tanning range from wrinkled skin to cancer

マクロビはジョブズを殺したのか? その2

   (第一回)をお読みの方の一番の疑問は、恐らく以下の点だろう。

ジョブズのがんは怪しい代替医療に嵌っている間に転移してしまったのだろうか?」

 一通り調べた私個人の結論は、はっきりと断言することは出来ない、というものだ(ただし、治療の遅れ自体は一切メリットを生んでいない)。

 まず、転移については分かっていないことが多い。むしろ同時多発的なものではないかとの説があり、その説に基づいた予防的な抗がん剤投与は近年成果を上げてもいる。
 進行に従い増えていくのは確かだが、現在の技術では微少転移の発見は難しい。何々がんのステージ幾つでは何%程度、は判明しても、その時期の特定までは至難だ。

 そして、ジョブズの罹ったがんの種類も問題だ。

 膵臓で作られるホルモンのひとつにグルカゴンがある。インスリンと逆の作用を持つホルモンで、肝臓無いのグリコーゲンを分解して血糖値を高めるのだが、ジョブズの場合、グルカゴンの過剰が大きな問題となっていた。要するに体が自分を食べる状況になっていて、グルカゴン濃度を下げる薬を使っていたのだ。 p299-300

 これは膵臓内分泌種の中でも、グルカゴノーマと呼ばれるものだ。闘病中の極端な体重の減少など、諸々の症状も一致する。
 一般に膵臓内分泌種は比較的予後がよい。比較的大人しいインスリノーマであることが多いからだ。インスリノーマは膵臓内分泌種の約70%を占め、その内90%が良性である。
 一方、グルカゴノーマは50%が悪性を占め、腫瘍が小さな内から肝転移を起こすことが知られている。そして画像だけでは、転移などの詳細な判断がつかないことが多い。早期発見をしたからと言って油断は出来ない。
 素直に伝記の記述を読む限り、「怪しい代替医療に嵌っている間に転移してしまった」との断言は出来ないものと推測される。

 だが、それはあくまで、「断言は出来ない」というだけのことだ。くどいようだが、治療の遅れは何らプラスではない。ジョブズの検診と同年の学会誌から引いてみよう。

・膵内分泌腫瘍は一般に予後が良いと考えられている
・膵内分泌腫瘍は(中略)外科切除によってはじめて良好な予後が得られる
http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=naika1913&cdvol=92&noissue=4&startpage=589&lang=ja&from=jnlabstract

 著者も記しているが、膵内分泌腫瘍の治療は手術しかない。良性である可能性が大だからといって、怪しい治療にすがるような神頼みはするべきではないと言うことだ。

 別な見方をするなら、ジョブズだからこそたった9ヵ月でいったん代替医療を見切り治療に入れた、ということも出来るだろう。治療を拒否し拘泥した結果、との例は、枚挙に暇がない。「好転反応」や「ここで止めたら今までのことがすべてムダになる」と言った、無意味な代物に引き留めるための方便も。

 彼の一連の行動は「他の方法でも治癒できる」と本気で信じていたフシがあります。でなきゃ、最初から手術をうけるか、最後まで拒否るかのどっちかですよね。  「ザ!世界仰天ニュース」でスティーブ・ジョブズの特集をやっていた」

 もし食事などの身体に対する負担の少ない方法でがんが治せるなら、これほど喜ばしい話はない。けれども、食事で治せることが判明した病気がどうなったか、いったん振り返ってみるべきだ。脚気やクル病のように、当の昔に対処法が広まり、激減している病気のことを。今や恐れられてもいなければ、仮にかかったとしても落ち着いて対処するだけの病気のことを。
 ましてや今はインターネット時代だ。いくら「がん治療には多額のビジネスが絡み云々」と言ってみても、患者を治したいという現場の医師一人一人を止められるものでもない。何かがあるなら、もっと広まっている方が自然だろう。

 ジョブズの場合こそ微妙だが、早期であればかなりの確率で治療できる白血病悪性リンパ腫だったらどうだろう。きっちり因果関係が出て、マクロビが廃れるきっかけになったのではないか。1930年代、健康によいとして大流行したラジウムが、愛用した大富豪の死と共に廃れたように。

 通常医療に対する拒否だけではない。マクロビを始めとする菜食主義を、特にがんに罹った時の食事として採用するのは大きな問題がある。   (続く)

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マクロビはジョブズを殺したのか? その1

 本稿ではウォルター・アイザックソンスティーブ・ジョブズ II』日本語初版の記述を元に、マクロビがスティーブ・ジョブズに対し何を果たしたかを検証する(伝記には菜食主義とあるが、これはマクロビオティック、通称マクロビのことだと、著者がCBSテレビのインタビューで名指している)。

 その1ではまず概略を示すと共に、がんの発見当時を追ってみよう(ウィキペディアにも概略があるが、2011年12月13日現在でも伝記の記述がまったく反映されていない。また書かれた病名にも議論の余地がある。これはその2にて詳しく述べる)。

   03年10月 腎臓検査のため5年振りのCTスキャン
           膵臓に影が見つかり、数日後の詳細な検診を薦められる
   03年10月 朝。膵臓に腫瘍が見つかる。医師の一人から、
          「身辺を整理したほうがいい」と告げられる。
           夜。内視鏡、及び生検で膵島細胞腺腫か膵臓神経内分泌腫瘍と判明。
           早期発見で治療可能と見られたため、手術を薦められる。
  〜04年06月 治療を拒否し、代替療法を実践。鍼治療、有機ハーブ、
           ジュース断食、腸の浄化(コーヒーエネマ?)、水治療。
           ほかに心霊療法、負の感情の表出、など。
   04年07月 CTスキャンで腫瘍の増大を確認。治療を決意。
   04年07月 膵臓の一部を切除。術中、肝臓への3カ所の転移が判明。
   08年春頃  食欲不振。この時期だけで20kgの体重減。
   09年01月 アップルCEOを6ヶ月休職。肝臓移植待機者リストに登録。
  〜09年02月 二つ目の州の移植待機者リストに登録
   09年03月 肝臓移植。術中、腹膜に斑点が見つかる。
   10年11月 体調悪化。体重が52kgまで減少。※188cmの標準体重は78kg
   11年01月 再発が判明。病気療養休暇を申請
   11年07月 治療に使える種類の分子標的薬が尽きる。
           固形物が食べられず、一日のほとんどを寝て過ごすようになる。
   11年08月 アップルCEOを辞任
   11年10月 5日未明死去。最後の言葉は「OH WOW. OH WOW. OH WOW.」

 まず伝記の記述だが、取捨選択、及び事実の確認は的確だ。
 たとえば、意見と事実の峻別について。「がんが成長をはじめたのはあのころ(註:97−98年のアップル社とピクサー社との兼任時代)なんじゃないかと思う。あのころは免疫力がとても弱くなっていたからね」(p259)とのジョブズの言葉にも、直後で「極度の疲労や免疫力の低下ががんにつながるという証拠はない」(同)とクギを刺している。

 現状では免疫力についての決定的な指標はない。つまり、免疫力を上げるには云々、と好き放題言えると言うことだ。しかし記述から分かる通り、著者はきちんと把握している。著者がアメリカ屈指の伝記作家なのは確かなのだが、それにしても正直アメリカのレベルが羨ましい限りだ。

 ジョブズのがん発見当時について、著者はこう記している。

  早朝から検査をおこない、スキャン結果をチェックした医師団から腫瘍があると告げられる。そのひとりからは、身辺を整理したほうがいい、つまり、余命数ヶ月かもしれないと遠回しに告げられさえした。夜には口から腸まで内視鏡を入れ、膵臓に針をさして腫瘍の細胞を取る生検も行った。 p260

 膵臓がんかも知れないなら、医師の言葉にも無理はない。ただ結果的に、ジョブズ膵臓神経内分泌腫瘍だった。

 医師らは良かったと涙ぐんだらしい。膵島細胞腺腫あるいは膵臓神経内分泌腫瘍と呼ばれる珍しい腫瘍で、進行が遅く、その分、治療できる可能性が高いものだったのだ。腎臓の定期検査でたまたま早期に発見できたことも幸運で、あちこちに転移する前に手術で取り除けそうだという。 p261

 そしてジョブズは、9ヶ月間治療を拒否する。

 ところがである。腫瘍は手術で除去するしか医学的に認められた対策がないというのに、ジョブズは手術を拒否し、友人や妻をぎょっとさせた。
「体を開けていじられるのが嫌で、ほかに方法がないか少しやってみたんだ」
 そう当時を回想するジョブズの声には、悔やむような響きが感じられた。 p261

 具体的には、まず、新鮮なにんじんとフルーツのジュースを大量に取る絶対菜食主義を実践。これに鍼(はり)治療やハーブを併用した。インターネットで見つけた療法や、心霊治療の専門家など他人から薦められた治療も試してみた。南カリフォルニアに自然治癒クリニックを持つ医師の勧めに従い、有機ハーブ、ジュース断食、腸の浄化、水治療、負の感情の表出などを熱心にした時期もある。 p261

 2004年7月の金曜日、新しいCTスキャンには大きくなった腫瘍が写っていた。広がった可能性もある。さすがのジョブズも現実と向き合うしかなかった。 p262-263

   (第二回に続く)

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安保徹講演会 in 大阪

 真実に値しない者に、真実を語ってはならない。
   ――マーク・トウェイン

 安保徹は、特定の商品(ベッド、金属、食品など)の推薦はしていません。その他、自称「安保xx塾」や「免疫xx認定」認定セミナーも、安保徹とは無関係です。
   医学博士 安保徹オフィシャルサイト(2011年7月19日)

   *

「じゃあバトンタッチだね」
 壇上の老人が話し終わり、講演者が変わった。出てきたのは30半ばの女性だった。
「Uと申します。私は透析を受けていましたが、手間もかかるし、週3回を2回1回と減らし、医者から「もう来んでええ」と言って頂き……」
 つまり自分から医者に見捨てられる選択肢をとった訳だ。勝手に透析回数を減らそうとする患者など、危なかしくて診たいものではないはずだ。まかり間違えばバカバカしい訴訟さえ受けかねない。
 慢性腎不全であれば、透析からの回復はない。といって腎臓移植をした様子もない。透析を中止すると、通常一週間前後で死に至る。持って三週間。急性腎不全の回復期にマルチ商品の、不幸な出会い。最大限好意的に見て、そんなところだろう。もっともこれは、申告がウソでなければ、の話だが。
「そんなときこの"商品"と出会いました」
 脇の老人は何も言わない。ただ黙って薄笑いを浮かべながら、壇上を見ている。
「皆さんにも、これを縁と思って頂ければと思います」
 彼女が薦めたのは、"酸素水"。講演前に配布され、「安保徹先生の講演会に参加された皆さまへ」と題されたパンフレットによると、発売元は「本製品を定期的に購入いただく事によって事業収入を得る」体験会の開催企業――つまり、マルチ商法企業だ。
 老人の名前は安保徹新潟大学医学部教授である。

   *

「では、安保徹先生です!」
 拍手の後、壇上に老人が上がった。講演が始まる。
 ボソボソとした東北訛りで、彼は話し始める。
「自分自身が病気になったり、家族の誰かが病気になると、楽しい状況が一変するわけですね。日本各地に大きな病院があるんですけど、行っても治してもらえない。リュウマチになってもがんになっても、上手く治った患者さんはほとんどいないという、そういう独特の問題がある。それは何で病気になるか知らないで生きてる。そこを理解されないまま対処療法ってことになってるわけですね」
 何と言うことはない、幾度となく著書で繰り返され、これからも繰り返されるであろう主張だ。糖尿病も腎不全も、あるいは血友病も、対処療法でようやく寿命が延びたとの視点はそこにない。対処療法を止めろというのは、一部の病気のひとにとっては死を宣告するに等しいのだが。
介護施設で呆けてるひとってのは、コレステロールとか血圧下げる薬を飲まされてる」
 相も変わらず、きちんとした根拠は示されない。少しの体験談と、「自律神経と副交感神経とが原因と分かったんです」との断言が繰り返されるだけだ。「ミトコンドリアと解糖系が関連」してもいるらしいが、率直に言ってアバンギャルド過ぎて分からない。医学部レベルの教科書で一通り予習はしてきたのだが。いや、商売抜きで"分かる"人間などいるのだろうか?
「……炎症ってのは治す反応な訳ですね。ぜんそくでもアレルギーでも、抗ヒスタミン剤ステロイドも使ってはいけない。治らない世界に引きずり込まれる。治る仕組みを知らないと危険なわけですよ」
 だが、これでいいのだろう。根拠を問う人間などここにはいないのだから。
 この会場にいる人の中に、病気の人はどれだけいるのだろうか。見る限り大半は健康なひとたちだ。しかし、いずれは当事者になるときが来る。それが恐ろしい。
 異を唱える声はない。この講演会は、ファンが集まるコンサートのようなものなのだから。生死に関わることであるにも関わらず。
 医者にかかるという選択肢を無くしながら、一缶8400円のサプリメントを嬉々として購入する人たち。彼らはこの後を、どう生きていくのだろう? 後悔するときが来るとして、それは恐らく、目の前の老人が死んだ後の話だ。その怒りはいったい、どこに向ければいいのだろう。己だろうか。あるいは、老人を野放していた世間だろうか。

   *

 老人の断言は続く。
膠原病も橋本病も、原因は紫外線です」
リュウマチは立ち仕事、重力が原因です」
 遺伝子研究を知らないのだろうか。さらに老人は言う。
「(がんを)治すのも完全に治せますね!」
「体を温めて深呼吸すれば、一月以内にがんの増殖は止まります」
「70歳以上のがんであれば、体を温めるだけで3日以内でストップですね!」
 本当であれば、喜ばしい話に違いない。
 やがて質問タイムが始まる。老人の威勢は止まるところを知らない。
「薬なしってのは耐えられないってことはない!」
 この老人は、痛みや症状に苦しむ患者をみたことがあるのだろうか? 少なくとも、新潟大学では無いのだろう。彼の大学HPにはこうあるのだから。

 この免疫理論は、私、安保徹の個人的見解であり、新潟大学医学部が認めたものではありません。さらに私は臨床医ではなく、新潟大学医歯学総合病院では診療はしていないことをお断りしておきます。   教室紹介

 疑惑は確信に変わった。この老人はエセだ。
 そして、諸々を承知の上で、会場の人間に何も言おうとしていない。

   *

 終わった後、私は偶然、会場にいたご夫婦と話す機会に恵まれた。詳しくは別の機会に譲るが、この言葉だけは今紹介しておきたい。

「あの"酸素水"を使用しているのですかと伺ったら、「酸素水? ううん、買ってないよ」との返事でした。でも、あれで勘違いするなという方が無理でしょう」

 なるほど。確かに安保徹は商品を薦めてもいないし、免疫や自分の名前を使ったセミナーと"無関係"なのだろう。法律上言い逃れの出来る範囲で、勘違いさせるよう仕向けているだけで。
 大学教授のお墨付き。そう"勝手に勘違い"した患者は、そうしてカネと健康を失っていく。安保徹にとって患者は、つまりは己の養分でしかないという訳だ。

   *

 新潟大学FM西東京は、この老人をいつまで放置しておくのだろう。出版社はいつまで祭り上げておくのだろう。そして"信者"は、いつになったら気付くのだろう。

 安保徹は1947年生まれだ。来年で65歳。このまま定年を迎えれば、新潟大学は慣例通り、名誉教授の称号を与えることになるだろう。それは即ち安保徹の"勝利"、カネヅルにした患者たちからの勝ち逃げに他ならないのだが。

写真:講演会に際し配られたパンフレット。上部に「安保徹」の文字がはっきりと見える。

7月25日追加資料:7月15日時点での公式サイトWeb魚拓。主催者名に注目。