マクロビはジョブズを殺したのか? その1

 本稿ではウォルター・アイザックソンスティーブ・ジョブズ II』日本語初版の記述を元に、マクロビがスティーブ・ジョブズに対し何を果たしたかを検証する(伝記には菜食主義とあるが、これはマクロビオティック、通称マクロビのことだと、著者がCBSテレビのインタビューで名指している)。

 その1ではまず概略を示すと共に、がんの発見当時を追ってみよう(ウィキペディアにも概略があるが、2011年12月13日現在でも伝記の記述がまったく反映されていない。また書かれた病名にも議論の余地がある。これはその2にて詳しく述べる)。

   03年10月 腎臓検査のため5年振りのCTスキャン
           膵臓に影が見つかり、数日後の詳細な検診を薦められる
   03年10月 朝。膵臓に腫瘍が見つかる。医師の一人から、
          「身辺を整理したほうがいい」と告げられる。
           夜。内視鏡、及び生検で膵島細胞腺腫か膵臓神経内分泌腫瘍と判明。
           早期発見で治療可能と見られたため、手術を薦められる。
  〜04年06月 治療を拒否し、代替療法を実践。鍼治療、有機ハーブ、
           ジュース断食、腸の浄化(コーヒーエネマ?)、水治療。
           ほかに心霊療法、負の感情の表出、など。
   04年07月 CTスキャンで腫瘍の増大を確認。治療を決意。
   04年07月 膵臓の一部を切除。術中、肝臓への3カ所の転移が判明。
   08年春頃  食欲不振。この時期だけで20kgの体重減。
   09年01月 アップルCEOを6ヶ月休職。肝臓移植待機者リストに登録。
  〜09年02月 二つ目の州の移植待機者リストに登録
   09年03月 肝臓移植。術中、腹膜に斑点が見つかる。
   10年11月 体調悪化。体重が52kgまで減少。※188cmの標準体重は78kg
   11年01月 再発が判明。病気療養休暇を申請
   11年07月 治療に使える種類の分子標的薬が尽きる。
           固形物が食べられず、一日のほとんどを寝て過ごすようになる。
   11年08月 アップルCEOを辞任
   11年10月 5日未明死去。最後の言葉は「OH WOW. OH WOW. OH WOW.」

 まず伝記の記述だが、取捨選択、及び事実の確認は的確だ。
 たとえば、意見と事実の峻別について。「がんが成長をはじめたのはあのころ(註:97−98年のアップル社とピクサー社との兼任時代)なんじゃないかと思う。あのころは免疫力がとても弱くなっていたからね」(p259)とのジョブズの言葉にも、直後で「極度の疲労や免疫力の低下ががんにつながるという証拠はない」(同)とクギを刺している。

 現状では免疫力についての決定的な指標はない。つまり、免疫力を上げるには云々、と好き放題言えると言うことだ。しかし記述から分かる通り、著者はきちんと把握している。著者がアメリカ屈指の伝記作家なのは確かなのだが、それにしても正直アメリカのレベルが羨ましい限りだ。

 ジョブズのがん発見当時について、著者はこう記している。

  早朝から検査をおこない、スキャン結果をチェックした医師団から腫瘍があると告げられる。そのひとりからは、身辺を整理したほうがいい、つまり、余命数ヶ月かもしれないと遠回しに告げられさえした。夜には口から腸まで内視鏡を入れ、膵臓に針をさして腫瘍の細胞を取る生検も行った。 p260

 膵臓がんかも知れないなら、医師の言葉にも無理はない。ただ結果的に、ジョブズ膵臓神経内分泌腫瘍だった。

 医師らは良かったと涙ぐんだらしい。膵島細胞腺腫あるいは膵臓神経内分泌腫瘍と呼ばれる珍しい腫瘍で、進行が遅く、その分、治療できる可能性が高いものだったのだ。腎臓の定期検査でたまたま早期に発見できたことも幸運で、あちこちに転移する前に手術で取り除けそうだという。 p261

 そしてジョブズは、9ヶ月間治療を拒否する。

 ところがである。腫瘍は手術で除去するしか医学的に認められた対策がないというのに、ジョブズは手術を拒否し、友人や妻をぎょっとさせた。
「体を開けていじられるのが嫌で、ほかに方法がないか少しやってみたんだ」
 そう当時を回想するジョブズの声には、悔やむような響きが感じられた。 p261

 具体的には、まず、新鮮なにんじんとフルーツのジュースを大量に取る絶対菜食主義を実践。これに鍼(はり)治療やハーブを併用した。インターネットで見つけた療法や、心霊治療の専門家など他人から薦められた治療も試してみた。南カリフォルニアに自然治癒クリニックを持つ医師の勧めに従い、有機ハーブ、ジュース断食、腸の浄化、水治療、負の感情の表出などを熱心にした時期もある。 p261

 2004年7月の金曜日、新しいCTスキャンには大きくなった腫瘍が写っていた。広がった可能性もある。さすがのジョブズも現実と向き合うしかなかった。 p262-263

   (第二回に続く)

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