日焼け(タンニング)マシンはがんの元

 ここ十数年、日焼けサロンは激増した。
 かつてのガングロ(全身色黒)ブームほど表だってはいないが、今では街角のそこここにサロンを見かけることが出来る。
「褐色の肌」「小麦色に」「こんがりと」
 謳い文句を見ても、極めて健康的なイメージが並ぶ。
 しかしながら、「日焼けが健康的」とのイメージは、果たして事実なのだろうか。

 そもそも、日焼けとは何だろう?
「肌が日に焼けること」、では不十分である。
 抑えておくべきは、日焼けは「紫外線の身体への侵入を防ぐため、肌がメラニン色素を産出する現象」であるということだ。このメラニン色素の産出こそが、俗に日焼けと呼ばれる。つまり日焼けとは、紫外線の害を防ぐべく起こる防御反応に他ならない。
 放射線ほどではないが、紫外線も遺伝子を損傷させる力を持っている(というより、放射線の波長が長いもの≒エネルギーの小さなものが紫外線である)。日焼けと害は表裏一体であり、健康な日焼けなどということは有り得ない。
 そしてもちろん、太陽の紫外線か日焼けマシンの紫外線か、という区別は肌には無い。天然でも人工でも、危険なものは危険である。どう理屈をつけようと紫外線は紫外線であり、大なり小なり肌に害があることに変わりはない(でなければ防御反応である日焼け自体が起こらない)。

「小麦色の肌は健康的」というイメージ、「日焼けサロンなら(有害な紫外線をカットしているから)安心」との謳い文句も問題だが、本当の問題は「日焼けサロンに通うと(通常の太陽由来のものに加えて)さらに紫外線が肌にあたる」ことだ。

 世界的がん研究機関であるMDアンダーソンでは、日焼けマシンについてこう警告している。

 皮膚がんはアメリカではもっともありふれたタイプのがんだ。すべてのがんの内、およそ半分を皮膚がんが占めている。その内90%が基底細胞がんであるが、これは早期発見できれば外科的処置でほぼ治療することが出来る。有棘細胞癌はそれに次ぐ頻度である。メラノーマ(悪性黒色腫)は最も攻撃的かつ致死的なタイプの皮膚がんである。

 これまでの研究は、三つのがんすべてが日焼けマシンと関連していることを示している。ある研究では、月に一度以上日焼けマシンを使う女性は使わない女性に比べて55%以上、メラノーマの発生率が増加した。このリスクは35歳未満に日焼けマシン使用を開始することでさらに増加していた。別の研究では、一切使用していなかった者に比べ、使用者のメラノーマ発生リスクは75%増加、多用している者では200%の増加に直面していた。

 2009年、国際がん研究機関(IARC・世界保健機関(WHO)の一部門)が日焼けマシンを発がん性リストに指定したにもかかわらず、アメリカの100以上の都市では日焼けサロンの数はスターバックスマクドナルドを合わせた数を上回っていた。さらに言えば、アメリカの17歳の女性の内、3分の1以上が室内タンニングを使っていたと報告されている。

   『OncoLog』2012年3月号「タンニングベッド(日焼けマシン)は健康リスクを増加させる」(筆者抄訳)

 無論、「健康に悪いから肌を焼くなんて止めろ」と言っている訳ではない。単にイメージチェンジをしたい人ひと、小麦色の肌が欲しいひとにとって、そう言ってもただの余計なお世話というものだ。皮膚がんの発生は人種差・地域差が大きく、単純に危険性が倍増する訳でもない(日本人はというと、白色人種ほど弱くはないが、黒色人種ほど丈夫でもないようだ)。
 だが、健康のために肌を焼いている、というようなひとは注意が必要だ。既に述べたとおり、それは逆効果になる可能性が極めて高い。

 テキサス州では2009年に16歳未満の使用を、カリフォルニア州では2011年に未成年者の使用を禁止する法律が出来ている。また日焼けサロンチェーンの「ビタミンDを補充」とのPRに、テキサス当局は警告を出している。体がビタミDを生むのは何も日焼けサロンだけではないし、食べ物からとっても全然構わない。しかも、日焼けサロンほどの健康リスクは無い。
 このように他との比較をさせない広告は、極めてありきたりといっていい。これはアガリクスの広告手法――βグルカンが大量に含まれている称するが、他の安価なキノコ類にも同じく含まれている――やクロレラの広告手法――ビタミンKが大量に含まれていると称するが、納豆やホウレン草、わかめや、ノリなどにも大量に含まれている――にも使われている。他のものと比較しなければ、「そもそもそれは本当に必要なのか?」との根本的な疑問は生まれにくいものだ。

 あまり日焼けサロンが「健康的」なイメージを押し出し続ければ、日本の警察や厚労省も動かざるをえなくなるだろう。実際、ブラジルでは既に、日焼けマシンは全面禁止されている。
 近い将来、日本でも「違法日焼け店摘発!」がニュースになる時代が来るのかも知れない。

 書きかけ原稿からの試験的転載です。
 最近の論文は本当にいろいろ検証してあって面白いですね。
 英語出来る人は原文の一読をお薦めします。

Tanning Beds Pose Health Risks Dangers of tanning range from wrinkled skin to cancer